
年齢を重ねるにつれて、さまざまな理由により転倒のリスクが高まります。また転倒は、骨折や寝たきり、要介護状態につながる重大な健康問題です。しかし、適切なトレーニングを日常に取り入れることで、転倒のリスクは大きく軽減できます。この記事では、高齢者が転倒しやすくなる理由と、予防に役立つ具体的な運動方法を紹介します。
高齢者は転倒で救急搬送されるケースが非常に多い
高齢者は、加齢とともに筋力やバランス感覚が低下しやすくなり、若い頃には何でもなかった段差やちょっとしたつまずきが、大きな事故につながることがあります。とくに足腰の筋肉が衰えることで、転倒のリスクは年々高まっていくのです。東京消防庁の調査によれば、高齢者の救急搬送理由としてもっとも多いのが、転倒によるものと報告されています。しかも、その転倒事故の過半数が屋内で発生しており、中でも居室・寝室での発生率がもっとも高くなっています。
骨折のリスクも高い
さらに、注意すべきなのが骨折のリスクです。高齢者が転倒して骨折する割合は約10%にものぼるとされており、一度骨折してしまうと、そのまま長期にわたり、寝たきりの状態になってしまうケースもめずらしくありません。骨折によって活動量が著しく低下すると、筋力のさらなる低下を招くだけではなく、心肺機能も衰えていきます。
また、社会との接点が減ることで精神的にも不安定になり、認知機能が低下して認知症を発症するリスクも高まります。このように、転倒は単なるけがでは済まず、心身ともに高齢者の健康を大きく損なう要因であるため、注意が必要です。
転倒予防にはトレーニングが必須!
普段から意識的に運動を取り入れ、身体機能の維持・向上を図ることが、転倒を防ぐうえで極めて重要です。65歳以降は要注意
厚生労働省が公表した「次期国民健康づくり運動」に関する資料によると、65歳を過ぎると歩行速度は徐々に低下し始め、男性は80歳以降、女性では75歳以降に、日常生活に支障があるほどの変化が見られるようになるとされています。歩行速度の低下は、転倒だけではなく、骨折や脳卒中など、ほかの健康リスクとの関連も指摘されています。つまり、筋力やバランスを保つことは、転倒予防にとどまらず、さまざまな病気やけがの予防にもつながっていくのです。
下半身のトレーニングが重要
そこで必要なのが、下半身を中心とした筋力トレーニングや、介護予防体操などの運動習慣です。移動に関わる筋肉を鍛えることで、歩行の安定性が高まり、自立歩行を長く維持できる可能性が広がります。自立歩行できれば、趣味や地域活動への参加も続けやすくなり、日々の生活に張り合いや楽しみが生まれるでしょう。さらに、運動の効果は身体面にとどまりません。
高齢になると活動量が減少し、基礎代謝も低下しがちですが、適度な運動を継続することで筋肉量が増え、エネルギー消費量が高まります。その結果、食欲も安定しやすくなり、栄養状態を良好に保てます。
筋肉の維持にはたんぱく質などの栄養素が欠かせないため、運動と食事の両立が健康維持には不可欠です。加えて、運動は精神面にも好影響を与えます。体を動かすことでストレスが緩和されたり、意欲が高まったりするとされています。
転倒予防に効果的なトレーニングとは
転倒予防に効果的なトレーニングは、日常生活の中に取り入れやすいため継続しやすく、身体機能の維持・向上に直結します。ここでは、無理なく取り組めるトレーニングを紹介します。かかと上げ運動
椅子に座り、背筋を伸ばして足の裏をしっかり床につけ、両手は椅子の横か太ももに置きます。この姿勢から、足首を使ってゆっくりとかかとを上げ、つま先立ちのような状態になります。その後、かかとをゆっくりと床に戻す、という動きを繰り返す運動です。10回を1セットとし、ふくらはぎの筋肉を意識して実施しましょう。歩行時の踏ん張りに必要なふくらはぎの筋力を鍛えられるほか、下肢の血行促進やむくみの改善にもつながります。
つま先上げ運動
椅子に座った状態から、かかとを床につけたまま、つま先をゆっくりと床から浮かせ、下す動作を繰り返します。10回程度を1セットとし、無理のない範囲で実施しましょう。この運動は、つま先が上がりづらくなる「すり足歩行」の改善に効果的です。つま先を意識して持ち上げる練習は、つまずきによる転倒の予防に直結します。
足指把持トレーニング
床に敷いたタオルを足の指でたぐり寄せる運動です。椅子に座った状態で実施するため、バランスを崩す心配が少なく、安全に取り組めます。慣れないうちは、指でタオルをつまむだけでも十分な効果があります。上達してきたら、お手玉やビー玉を指でつかむ練習にステップアップすることで、地面をしっかりと捉える力がつき、転倒のリスクを大きく下げられるでしょう。